領域概要


 真核生物の進化、及び、オルガネラ(細胞内小器官)の進化は、生物学の最も重要な基本命題である。一般に葉緑体・ミトコンドリアなど真核生物に固有のオルガネラの進化は、マーギュリスの細胞内共生説(Sagan Theor Biol 14:255,1967)により説明されている。この説では細胞に共生した細菌が宿主に支配され、自身のゲノムを失い「隷属」させられることにより、オルガネラが成立するとされる。

 しかしながら、原生生物や藻類では、オルガネラが宿主を支配する逆転現象が示されている。また、共生により生まれたオルガネラをもつ生物を、更に「二次的に」取り込むことにより生じる二次共生由来オルガネラ(二次色素体など)が存在する。一部の原生生物では、いわば「入れ子」ともいうべき「オルガネラの二重構造」をもった上に、更に、哺乳動物などの真核生物細胞内に寄生している。我々は、この現象をロシアのマトリョーシカ人形に例え、共生・寄生現象によって駆動されるオルガネラ創成と真核生物進化を多層的・空間的に理解することを目指し、以下の研究を実施する。
  1. オルガネラ進化につながる一次・二次共生関係を生物界から広く検出し、共生を可能とする仕組みを理解する
  2. 進化過程にある共生・寄生オルガネラの機能と維持機構を解明する
  3. 「内部共生体に駆動される真核生物進化」という新しいパラダイムを確立する
  4. オルガネラ移植等の細胞工学手法による試験管内生物進化に必要な技術基盤を確立する
 この領域では、更に、これまで融合することの少なかった、生物多様性の解明を目指す原生生物・藻類学、有用生物(系・生態系)の作出を目指す生命・生態系工学、環境生物学、感染症学などの研究領域の融合を図り、共生体やオルガネラが宿主や環境を支配・隷属する寄生現象を観察することによって、真核生物の進化学に新しい視点を与え、新しい生物学領域を創出することを目的とする。さらに、本研究は、光合成、無機物固定などの機能を付加した新しい有用生物の創成に繋がる技術基盤を提供し、新しい生命・生態系工学領域の創成に貢献することも目指す。