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第35 回日本分子生物学会年会2012


 2012 年12 月に福岡で開催された日本分子生物学会第35 回年会において、「寄生・細胞内共生成立による生物進化の分子基盤解明に向けて」というテーマのワークショップを開催した。オーガナイザーは阪大・微研の永井宏樹博士と橋本哲男(筑波大・生命環境)である。

 寄生や細胞内共生において、侵入細胞と宿主細胞との相互作用は両者の飛躍的な進化をもたらす原動力となっている。この相互作用の分子基盤を明らかにすることにより、寄生体や共生オルガネラの侵入・維持機構とその進化に関する本質的理解が得られるものと期待される。本ワークショップでは、とくに寄生や細胞内共生の成立初期段階における、異種生物の出会い、細胞間共生、細胞内侵入、潜伏、増殖開始など異種細胞間の相互作用を伴う生命現象に注目した。寄生・共生系の形成過程の分子基盤、すなわち寄生・共生駆動型の生物進化原理の解明を目指し、さまざまな生物を対象として先駆的な分子生物学的研究を行っている若手研究者に、構造生物学的解析、分子生態学的解析、各種オミックス解析、バイオインフォマティクス解析などの先端的な方法論に基づくアプローチとその成果を紹介していただいた。

 演題は以下に示した6 題である。永井博士は細菌が真核細胞に感染する際に注入されるエフェクタータンパク質の分泌輸送機構について、レジオネラのアカントアメーバへの感染系における分子生物学的・構造生物学的研究の成果を報告した。小川博士は、赤痢菌、リステリア菌に対する宿主哺乳類細胞のオートファジー認識機構とそれに対する細菌側の回避機構に関する研究成果を報告した。本郷博士はシングルセルあるいは少数細胞からのゲノム解析をシロアリ腸内の原生生物・細菌共生系に適用して複数微生物群集を構成する種類ごとの機能解析に挑戦した研究の一端を報告した。これらのほかにもさまざまな生物間相互作用を対象とする3 つのショートトークが行われた。

1.永井宏樹(阪大・微研)寄生・共生戦略としての生物ドメイン間タンパク質輸送
2.小川道永(感染研)病原細菌と宿主との攻防〜感染生物学のススメ〜
3.大島研郎、前島健作、難波成任(東大・農)ファイトプラズマ属細菌の植物- 昆虫ホストスイッチングに伴う網羅的発現変動解析
4.本郷裕一(東工大・生命理工)シロアリ多重共生系の進化と機能
5.井上普、岩淵喜久男(農工大・農)多胚性寄生蜂の親和的寄生侵入における関連分子の新規同定と発現解析
6.中邨真之、杉浦昌弘(名市大・システム自然科学)タバコ葉緑体 rps16 mRNA の翻訳抑制機構の解析

 約150 人収容の会場は満席で立ち見での参加者もあった。いずれの研究も生物間相互作用の分子機構の解析に挑戦したオリジナリティーの高いものであり、さまざまな生物間現象や解析方法論が紹介され非常に興味深いものであった。会場からは活発な質疑応答・討論が行われワークショップは盛況に終わった。(橋本哲男)