成果ハイライト

成果ハイライトKamikawa et al. Mol Biol Evol 32, 2598-2604 (2015). doi: 10.1093/molbev/msv134


B01 石田、 B02 橋本、B03 稲垣、B03 神川らは、葉緑体ゲノムおよびトランスクリプトーム解析から、非光合成種珪藻類葉緑体において F0F1型ATP合成酵素複合体が本来の逆反応であるATP分解を行うことでチラコイドルーメン・ストロマ間におけるプロトン勾配を維持し、Twin-Arginine Translocator (TAT) システムによるタンパク質輸送に寄与している可能性を示唆した。他の非光合成藻類においても光合成能喪失後における F0F1ATP合成酵素複合体遺伝子とTATシステム遺伝子の維持が観察されることから、TATシステムによるタンパク質輸送系の維持が光合成能喪失進化の初期過程における重要なファクターであるという進化仮説を提案した。


成果ハイライトOhkuma et al. Proc Natl Acad Sci U S A 112, 10224-10230 (2015). doi: 10.1073/pnas.1423979112



A02 大熊らは、シロアリ腸内のセルロース分解性原生生物の細胞内に共する新規のスピロヘータ種細菌を発見した。その細胞内共生細菌に、原生生物のセルロース代謝産物である水素と二酸化炭素からシロアリのエネルギー源である酢酸を生成する機能、および、シロアリが食べる材に不足する窒素源を窒素固定により確保する機能を解明した。ゲノムの特徴から、細胞内共生細菌は進化の初期過程にあって、ダイナミックな適応段階にあることも判明した。シロアリ・原生生物・細胞内共生細菌からなるマトリョーシカ型共生進化の理解を進めた画期的な成果である。

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成果ハイライトMi-ichi et al. Proc Natl Acad Sci U S A 112E2884-E2890 (2015). doi: 10.1073/pnas.1423718112


B02 見市(公募)、B02 橋本、B02 野崎らは、赤痢アメーバの極端に退化したミトコンドリアである*マイトソーム"の解析を行い、合成される分子の一つがコレステロール硫酸(CS)であること、CSが感染嚢子の形成を制御する重要な分子であることを見出した。土壌中に生息するアメーバも
嚢子形成は行うが、CS合成能を持たない。赤痢アメーバの祖先による硫酸活性化経路のマイトソーム内への獲得、それに引き続くCS合成能の獲得が、寄生適応につながったと考えている。以上のことから、赤痢アメーバの"マイトソーム"はただ退化しただけではなく、硫酸活性化に特化し寄生現象を成立される働きをする、極めて特殊な進化をなとげたオルガネラであるといえる。


成果ハイライトKubori et al. Proc Natl Acad Sci U S A 111, 11804-11809 (2014). doi: 10.1073/pnas.1404506111


A01 永井らは、細菌感染成立の鍵を担うIV型分泌系として世界で初めて、その中核複合体を生化学的に単離し、その分子構造を電子顕微鏡を用いて明らかにした。IV型分泌系の構造とその構築機構の解明は、細菌感染をくい止める薬剤の開発に繋がる。同時に、
マトリョーシカ化の一掃を分子論的に解明した成果である。

成果ハイライトNakayama et al. Proc Natl Acad Sci U S A 11111407-11412 (2014). doi: 10.1073/pnas.1405222111


B03 稲垣、B03 神川、B03 中山(研究協力者) らはロパロディア科珪藻にみられる細胞内共生シアノバクテリアの全ゲノム配列を世界に先駆けて解読し、そのゲノムが大きく縮小していることを明らかにした。また、当該共生体は窒素固定を行う能力を保持するが、もともとももっていた光合成能力を失っていることが明らかとなり、窒素固定に特化したオルガネラとして進化しつつあることが示された。この結果は細胞内共生を通じたオルガネラ獲得におけるゲノム進化を理解する上で重要な知見である。


成果ハイライト−特願2012-252102


C03洲崎らは、人為的に操作可能なマトリョーシカ型生物であるミドリゾウリムシを利用し、土壌からの放射性セシウムの除去法を考案した。ミドリゾウリムシは粘土粒子を捕食し、セシウムのみを内部共生体であるクロレラに300倍以上濃縮した。土壌懸濁液中のミドリゾウリムシを走電性により分離することで、汚染土壌からの放射性セシウム除去が可能になると期待できる。


成果ハイライトHara et al. Sci Rep 3, 1635 (2013). doi: 10.1038/srep01635Sci Rep, 2013


C03原ら(公募)は、哺乳類培養細胞のミトコンドリアにデルタロドプシンを発現させ、光依存的にプロトン駆動力を生み出すことに成功した。この光駆動ミトコンドリアは、葉緑体のように光エネルギーを細胞内エネルギー(ATP)に変換することができ、植物で見られる光合成の一部を哺乳類細胞で再現した画期的な成果と言える。本研究成果は人工マトリョーシカの具体的な成果であり、再生医療技術との融合によりパーキンソン病などの治療にも役立つ可能性をもっている。


成果ハイライトMakiuchi et al. Sci Rep 3, 1129 (2013). doi: 10.1038/srep01129


B02野崎、B02見市(公募)らは高度に進化した嫌気性ミトコンドリアのタンパク質外膜透過装置の構成因子を同定した。通常の好気性真核生物を含め他種生物に保存されない新規受容体Tom60の発見は共生体由来オルガネラが独自の進化を遂げたことを示した。


成果ハイライトKikuchi et al. Science 339, 571-574 (2013). doi: 10.1126/science.1229262

B01中井ら(公募)は植物の一次共生葉緑体の内包膜におけるタンパク質膜透過装置(TIC translocon) を精製し、その全構成因子をはじめて同定した。なかでもTic214は緑色植物の葉緑体ゲノムに特異的で長らく機能不明とされてきたycf1遺伝子の発現産物であった。このことは、一次共生オルガネラのタンパク質輸送装置が核のみではなく葉緑体ゲノムの積極的な関与によって構築されており、一次共生葉緑体においても継続的にオルガネラ駆動型の進化が起きていることを示す画期的な成果である。


成果ハイライトCurtis et al. Nature 492, 59-65 (2012). doi: 10.1038/nature11681


B01石田らは、全ゲノム情報からクロララクニオン藻の核ゲノムの中で色素体へ輸送されるタンパク質(色素体プロテオーム)を推定し、色素体輸送シグナルの多様性を示した。また、B01平川(研究協力者)は、色素体の4枚の包膜の内側の2枚と外側の2枚の間にあるスペース(色素体周縁区画:PPC)へ輸送されるタンパク質のプロテオームを推定した。本研究は、二次共生によって色素体(葉緑体)を獲得した生物で初めての全ゲノム配列解析であり、二次共生における共生真核藻のオルガネラ化とそれに伴う細胞進化(つまり二次共生におけるマトリョーシカ型進化原理)の理解を飛躍的に進めた


成果ハイライトNakabachi et alCurr Biol 24, R640-R641 (2014). doi: 10.1016/j.cub.2014.06.038

A01中鉢ら(公募)は進化的にきわめて安定な特徴を示すオルガネラ様「防衛共生体」Profftellaを世界で初めて発見した。防衛共生体は二次代謝物を用いて宿主を天敵から守るが、一般に進化的に不安定である。しかし半翅目昆虫ミカンキジラミの共生器官に見出したβプロテオバクテリアProfftellaは、永続的に垂直感染を繰り返していた。そのゲノムは460 kbと極端に縮小していたが、強い細胞毒性をもつ新規ポリケチド・ディアフォリンの合成に15%にも及ぶ領域を費やしており、防衛共生体としての分子基盤が明らかになった。